「世界地図の下書き」(朝井リョウ)

厳しい現実を突きつけられて幕を閉じます

「世界地図の下書き」(朝井リョウ)
 集英社文庫

両親を事故で亡くした
小学生の太輔が、
「青葉おひさまの家」で
暮らし始めて三年が過ぎた。
お姉さん的存在であった
佐緒里が卒業を機に施設を出る。
一緒に生活してきた
太輔・淳也・麻利・美保子は、
彼女のために
ある計画を立てる…。

太輔(小6)・佐緒里(高3)・淳也(小6)
・麻利(小4)・美保子(小5)の5人は、
児童養護施設の同じ班で
生活している子どもたちです。
主人公・太輔は、
両親を突然の交通事故で亡くし、
預けられた伯父夫婦に虐待を受け、
心に傷を負ったまま
入所してきたのです。
本作品は太輔が
いくつかの困難を乗り越え、
大きく成長していく
物語だろうと思って読み進めました。
ところが、普通の
「少年成長物語」とは一味違います。
最後は厳しい現実を突きつけられて
物語は幕を閉じます。
では、太輔の成長とは?

太輔の成長①
視野が広がる

自分ひとりが不幸を背負っている、
自分だけがひとりぼっち。
仲間はみんな明るく過ごしている。
そう思い込んでいた太輔は、
一人一人に事情があることに
気付きます。
親の家に行ったはずなのに
靴を泥だらけにしてきた美保子。
雨の中、友達の家から
裸足で帰ってきた麻利。
自分の教室を太輔に見られることを
頑なに拒んだ淳也。
そして、もっともしっかりしていて
自分たちが甘えられる
存在だった佐緒里もまた
何かを抱えていることに、
太輔は気付いていくのです。

太輔の成長②
現実を受け止められる

最後の場面は心の中に暖かい風が
吹き抜けていくような感動が
押し寄せてきます。
ところが、決して
ハッピーエンドではありません。
佐緒里だけではなく、
淳也・麻利の兄弟、
そして美保子も施設から旅立ちます。
みんなとの別れを、
太輔は受け止めていくのです。
そして、努力しても叶わない
夢があるということを、
自分の力では変えられない
現実があるということを、
太輔は受け止めていくのです。

太輔の成長③
自分の気持ちに気付く

太輔はそれまで佐緒里をお姉さん、
いやむしろお母さんとして
みていたのだと思います。
両親のいない太輔にとって
唯一甘えられる存在だったのです。
でも、
終末から三行目にある一文が、
物語を爽やかに締めくくっています。
「好きだったのだ、
 この人のことを。とても。」

これだけ涙が溢れてくるのに、
これだけ心にほろ苦さの
残った物語は初めてです。
中学校3年生、そして
大人のあなたに強くお薦めします。

※「桐島、部活やめるってよ」で
 注目された朝井リョウ
 本作品が初の
 児童文学作品でありながら、
 坪田譲治文学賞受賞。
 このとき著者23歳!
 すごすぎます。

(2019.3.20)

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